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「沖縄の染と織の至宝」展によせて


11月1日付けの琉球新報 文化面に、琉球舞踊重踊流 宗家 志田房子の寄稿文が掲載されております。

 

「美意識の高さ語りかける」

これまでに体験したことのないような東京の酷暑も、ようやくその鉾先をゆるめ季節は秋。今秋、沖縄県立博物館・美術館にて開催されます企画展「沖縄の染と織の至宝―桃原用昇コレクション」の寄稿のため、慣れぬ筆を手に、机に向き合っております。

このたびの企画展では、鎌倉芳太郎、城間榮喜、與那嶺貞、平良敏子、宮平初子、玉那覇有公、藤村玲子、新垣幸子という近現代の沖縄染織界の匠と呼ぶべき方々の作品が、一同に揃うと伺っております。私は春に、桃原コレクションを拝見させていただく機会があり、名匠の手技(てぃわざ)、芸術美に見惚れるとともに、それぞれの作品から醸し出される色と香りに心を惹かれました。王朝の雅を思わせる首里織、平良敏子氏と喜如嘉の女性たちの魂を織り上げた芭蕉布、寄せては返す波のように幾重にも色が重ねられ、馥郁たる琉球藍の香が匂い立つ藍型、八重山の風を柔らかく包み込んだかのような上布、花咲く布とよばれる琉球紅型の踊衣装など。どの作品をとりましても、沖縄の染織文化の豊かさと美意識の高さを語りかける作品の数々でございました。

とりわけ、人間国宝 鎌倉芳太郎氏の作品を拝見した際、えも言われぬ色遣い、技巧の高さに眼を奪われましたことは言うまでもありません。鎌倉氏の作品は、折に触れ、東京国立近代美術館やご本を通して拝見し、かねてより憧憬を抱いておりました。戦前から戦後にかけ、琉球文化研究の第一人者として、染織はもとより、首里の御城(うぐしく)や尚王家ゆかりの御物などを研究なされた氏だからこその、琉球文化への敬愛と技術の粋が尽くされた作品に心を動かされました。

また、今企画展の前期・後期を共通して展示されます、琉球紅型の第一人者 城間榮喜氏の瑞雲に松竹梅と鶴亀文様をあしらった紅型の幔幕は、ひときわ皆さまの目を引く展示になるかと思います。今年の六月に、東京の国立劇場にて開催いたしました琉球舞踊「志田房子 真木の会」では、こちらの貴重な紅型幕を舞台上に掛けまして、私が作田を、志田真木が伊野波節を舞わせていただきました。琉球舞踊と合わせて、工藝の美を東京の多くの皆さまにご堪能いただけましたことは、何よりもの喜びでございました。

これらコレクションは、本企画展の後、桃原氏の故郷、石垣市へ寄贈されると伺っております。この沖縄の染と織の至宝を生み出された八名の名匠と同じく、私も伝統を後世に繋ぎ、芸術に携わる者のひとりとして、日々丁寧に作品と向き合って参りたいと改めて思った次第です。今回の企画展を通して、より多くの皆さまに沖縄の染と織の美しさ、その芸術性の高さに触れていただくとともに、過去、現在、そして未来へと、ひと筋の美しい糸のように紡がれ、受け継がれてゆく手技の世界に、私も、今一度想いを馳せてみたいと存じます。

色の綾なしゆる
染織りの御布
代々に花咲かす
黄金御技


※ 紙面では、掲載に際しての制約があり、語調を調整の上、掲載されております為、こちらでは原文をご紹介させていただけたらと思います。

2023年11月02日